自社株式の売渡請求権が仇に

2021.01.26

相続人に対する自社株式の売渡請求という制度をご存知でしょうか?

株主が亡くなった場合、会社が自己株式(金庫株)として、

株主の相続人から買い取ることができる制度です

(定款に記載と株主総会特別決議が必要です)。

自社株に譲渡制限があっても、株主に相続が発生すれば、

民法に従ってしかるべき相続人に相続財産として自社株は移動します。

そうなると、会社にとって好ましくない人が相続し、経営に参画する場合もあるのです。

 

売渡請求のメリット

例えば、創業者の祖父が設立登記のさいに名義だけ借りた「名義株主」がいたとします。

孫であるあなたは名義株主の名前も顔も知りません。

名義株主が先日亡くなりました。

その自社株は息子に相続することになったわけですが、

その息子は街では評判の良くない厄介者です。

法外な価額での自社株の買取請求や株主総会での妨害行為、

また会計帳簿閲覧謄写請求を内容証明郵便で送ってくる可能性もあります。

そうなったら、後継者は本業どころではありません。

このような自体を回避するために、

相続人に対して売渡しを請求することで、分散を防ぐことができる制度です。

 

売渡請求のデメリット

しかし、実際には弱点もあり、必ずしも万能な制度ではありません。

では、この制度のデメリットを見ていきましょう。

次のようなケースがありました。

社長で78歳の父は長男と反りが合わず、

長女に婿養子を迎えて後継者にしようと考えていました。

発行済株式は1000株。

父 630株

古参役員 200株

婿養子 120株

長男  50株

この状況で父が亡くなり、娘婿は指定相続人として、父から630株の自社株式を相続しました。

何も知らされていなかった長男は、この状況に不服を抱かないわけがありません。

長男は古参役員と結託して定款の定めに従って、娘婿が父から相続した630株について、

会社が買い取る決議を求めました。

指定相続人である娘婿は特別な利害関係人であり決議権がありません。

 

会社法175条

1.会社が、譲渡制限株式の相続人・一般承継人に対して「売渡請求」をする場合、その都度、「株主総会の決議」によって、以下の事項を定めなければなりません。

・売渡請求する株式の数(株式の種類、種類ごとの株式)

・請求対象となる者の氏名、名称

2.「請求対象となる者は」は、当該株主総会において議決権を行使することができません。

 

結果、長男と古参株主が議決権を行使することになり、売渡請求に関する決議は成立しました。

そして、長男と古参役員によって、娘婿は会社から追放されるのです。

この制度の痛いところは、相続人にとっては特別利害関係人に位置付けられるので、

売渡請求を出されたら議決権を行使できないところにあります。

 

本来、少数株主から会社を守るための制度が、

逆手に取られる場合もありますので注意が必要ですね。