会社を追放される

2020.12.30

2018年6月22日 金曜日 16:00

第74回通常株主総会

 

役員室で佐野経理部長と軽く打ち合わせして、

株主総会という決戦に挑む。

 

この場合はこう対応するとか、

最悪の場合の回避策はこれとこれ。

でも、「最悪の場合」は多分ないよな。とか、

最後に経営者責任とって、

役員報酬の減給くらいはあるかもしれんな。とか、

その時までは信じていた。

何とかなる、と。

 

定款の規定に基づいて、

議長は代表取締役の私が務める。

 

例年とは違う、重い空気。

今年度の総会は議案は決算報告のみ。

第1号議案の決算報告を淡々と読み上げ、

監査報告も終わり、

議案の承認の拍手を求めたところ。

 

全員無視。

 

横に座った佐野経理部長の顔が青ざめ、

プルプルと小刻みに震えているのが私に伝わり、

緊張は最高潮に。

 

そしてその時、

会長が小さく咳払いをして、

「代表取締役の解任を動議する!」

一瞬耳を疑った。

淡々と委任状の票を読み上げはじめ、

勝利を宣言するみたいなことを言った。

 

「ハヤト!お前裏切ったな!」

 

総会前に固く約束した、

あれは一体何だったんだ?!

 

ハヤトについて簡単に説明しておく。

ハヤトは次男の弟。

創業家で母方の祖父母の養子になったため、

株を相続し、No2の株主になった。

もともと、ロックミュージシャンを目指して上京したこともあり、

株とか経営には全く興味がない。

株主総会前にハヤトに事態の深刻さを説明して、

委任状を取る約束まで交わしたのに、

寝返った。

父親の会長に買収された。

ほんの僅かな金額だと聞く。

本人は事態の仕組みを理解していないので、

ビートルズのオリジナル盤を入手する僅かな金額で、

私の人生は翻弄された。

 

発行済株式600株のうち、

会長160株

母 90株

古参役員30株

姉   7株

義兄  5株

合計 292株

VS

社長   35株

弟ハヤト  110株

弟アキト      12株

他少数株主 61株

社員持株会 90株

合計 308株

 

これで勝算の目処はついた。

最悪の場合と設定した解任動議は避けられる。

何かの間違いで相手が上回っても、

母は現在施設で療養中で意思の疎通ができないため、

母の分は議決数には入らない。

 

はずだったのが。

ハヤトが寝返り、

母の無効議決権を保持したまま強行採決。

その結果、

 

402対198

 

むちゃくちゃなやり方で、

プロキシファイトは幕を閉じた。

 

法的手段をとると報復し、

事前に調べた知識で勝算がある根拠を並べても、

「やれるものならやってみろ」

と会長も義兄も強気の姿勢を崩さない。

 

会長と私との一対一の攻防が続く。

 

そこへ、議長でも役員でもない、

少数株主の一人である義兄がパンパンと手を打ち

「さ、終わろか」

と勝手に総会を締めた。

 

日頃から、相談に乗ってもらっていた顧問税理士は、

申し訳なさそうに下を向いたまま目を合わそうとしない。

こいつもグルだったのか。

今まで信じてきたのに。

自分自身の愚かさに苛立ちを感じた。

 

古参役員の咲山は薄ら笑みを浮かべ、

なにやらご満悦のようだ。

 

私は失意と怒りと興奮で、

目の前で起きている現実が把握できなくて、

その場から動けなくなっていた。

 

そこへ、

小躍りしながらクルッと半転して、

義兄は私に指をさしながら、

幸せそうに笑った。

 

その時、

私は、

人生で初めて、

「人を殺したい」

と思った。

 

株主総会が終了し、

実質的に会社の人間ではなくなった。

満身創痍の私は、

ヨロヨロと会議室から出て、

もう居場所の無くなったはずの社長室に向かっていた。

途中、課長の中田とすれ違った。

彼の一言に耳を疑った。

「なおとくん。」