2020.06.22
なぜ後継者になるのでしょう。 ほとんどの後継者の皆さんは深く考えたことはないようです。 もっとも多いのは、子供のころから両親の背中を見て育って、 ただ何となく潮時が来たので親の会社に入社した、というタイプです。 私もこのタイプでした。 はっきりと次の後継者と指名されたわけではないのですが、親の言葉の端々や態度を見ていると そういう未来を自分で勝手に想像してきたというのが近いでしょうか。 フワフワした感じで入社して、ある時地獄見た。 よくあるタイプです。 中には積極的に、前のめりになって、「会社継がせてくれー」っていう方もいらっしゃるそうですが、 残念ながら私の周囲にはそのようなタイプの方はいらっしゃいません。 このような猛進するタイプは途中で失速したり、現実に直面して「しまった!」になるんだろうな、 と冷ややかに観察してます。 後継者にもいろんなタイプがいらっしゃるということなんですが。 ここに面白い後継者のタイプを4つのタイプに分類し、それぞれの社長就任後の業績を調べた 研究があります。
1. 情緒型(Want to) 自分の能力に自信があり、先代の会社の掲げる目標に対する情熱と貢献に強い願望がある。 2. 規範型(Ought to) 家業や先代の会社に貢献したい強い気持ちは義務感から生じるもので、個人としての関心よりも 直系としての親族に対する責任感を優先させる。 3. 打算型(Have to) 親の会社を継いだほうが楽できそうだし、他で働くよりもいい収入が得られそうだ。 4. 依存型(Need to) 起業や他社で成功する自信がないし、他に行くところがないので後継者になる。
出典:Four Bases of Family Business Successor Commitment
Pramodita Sharma and P.Gregory Irving, 2005
前者と後者でグッドとバッドが2分されているようです。 社長就任後これらの4タイプの後継者の業績調査については結果は言わずもがなの前者のタイプが 企業に与えた業績は大きかったという結果が出ています。 どうやって調査したのか、またどうやってアンケートしたのか、 そっちの方がわたし的には気になりますが。 そこまで詳しく文献には載っていませんでした。 そして、情緒型や規範型のように能力があって自信があり、 親族としての責任感(スチュワードシップ)がある方が業績が高く、 打算型で依存型の後継者が社長に就任すれば業績が低くなる、 それほど事業承継は単純なものではありません。 優秀さが仇になる場合も同族経営ではよくある事です。 依存型でも謙虚で帰属意識が高い後継者は周りのバックアップが大きく成功する種を多く持ってます。1の情緒型は教科書のような優秀な後継者です。 ただ、このタイプには優秀が故に弱点も多いのです。 周りの社員や古参社員との乖離が激しく常に上から目線になってしまう傾向がある。 優秀な後継者ほど社内の人間関係で苦労します。 どちらかといえば、直系の長男よりも娘婿社長に多いタイプなのかと思います。 彼らは100%同族でないぶん、親族と社員のバランスをうまく取れる立場にあり、周りと同調しうまくやっていけるのです。 直接お会いしたことはありませんが、とんかつの全国チェーンで急成長している かつや(アークランドサービスホールディングス株式会社) の臼井健一郎社長がこのタイプで間違いないでしょう。 ちなみに、日本の上場同族企業の業績を分析し、創業者、実子の後継者、娘婿、雇われ社長の4種類の 経営者の成績を比べた研究があります。 創業者の次にいい成績をあげているのが娘婿社長なんです。 なぜなのかは、また別の機会に書きたいと思います。 相模屋食料の鳥越淳司社長もこのカテゴリーですね。 優秀な娘婿はやり手が多いと感じます。 2の規範型は、もうほとんどの後継者が持っているマインドです。 ファミリービジネスの世界ではスチュワードシップ(受託責任)と言います。 これは教育現場で学ぶ類のものではなく、幼い頃からの環境に影響する部分が多いです。 専門知識や実務の知識も後継者には必要ですが、この親族としての責任感や義務感というマインドは外せないですね。 ここに乏しい後継者は壁に当たった時に脆く崩れやすいんでしょうね。 3の打算型ですが、はっきり言ってこれも多少なりとも心の隅っこにある感情ではないでしょうか。 他社で働くよりも、多くの犠牲や努力は支払わないといけないとわかりつつ、収入という富の機会を優先することはあると思います。 4の依存型ですが、こう見るとダメバカ息子になりがちですが、案外こういうタイプがあとで大化けするタイプなのかもしれません。 他で成功する自信ないから自社で頑張るしか道はない。 だから愚直に努力して会社も自身も成長するセオリーは王道です。 あえて、上記の4つのタイプに付け加えるとしたら、2つのタイプを加えます。 5つめのハイブリッド型です。ただし、1の情緒型は除外します。 イブリッド型とは規範型と打算型、依存型をうまく調合したタイプです。 何より親族直系との責任感が強く、連綿と受け継がれた家業から企業に発展させ次世代につなげる意欲を燃やしている。 また、他社で働く意識が低いので帰属意識が強い。 6つめの放棄型です。 そもそも後継者のカテゴリーに入るのか、とのお叱りを受けそうですが、実際に今増えていて、 後継者不足に拍車をかけているのがこのタイプではないでしょうか。 このタイプは幼少の頃から帝王学でしっかり教育されているので基本的に全ての水準が高く、学業成績も優秀です。 一流の大学に入学して、好奇心旺盛も合間って留学も経験する。 そして、そのまま都会で就職して、そのうち親の会社に戻ると約束しておきながら、 戻れないという口実(結婚・タワマン購入・役職)を作ってしまって、 そのままずるずるタイミングを逃して、事業承継を放棄するケース。 地元に弟など兄弟がいる場合によく見られます。 弟や義兄など後継者候補がいる場合はいいのですが、いない場合はM&Aか廃業の選択となってしまいます。 悲しい現実とも思えますが、幼少から手塩にかけて投資してきた事業承継の夢も、 結局は子供個人の人生という事で苦しい決断となります。 後継者候補だった子供も親の期待に添えなかったことを詫びて自分の選択した道を行きます。 義務や責任があったとしても、最終的には自分の人生です。 このように文献から紐解いて、6つの後継者のタイプに分けてみましたが、 あなたはどのタイプでしょう。 最初は打算型(親の会社なので楽できそう)で入って、自分の考えが間違っていた!事に気がついて 悩んでいる後継者は意外に多いです。