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ちょっとやりすぎな裁判

2022.09.17

事業承継

先日、とある地方裁判所に出向いた。担当とのアポイントにまだ余裕があったので、裁判を傍聴することにした。許された時間は30分ほど。公判予定票を確認すると、ちょうどいい時間にその裁判はあった。

空席を探して着席する。被告人と裁判長の入室を待つこと数分。

被告人

傍聴席に近いドアがノックもなしに突然ガタンと開き、腰縄にされた被告人が入室する。一瞬空気が固まる。被告人は初老の男性。白いTシャツにカジュアルなパンツに便所スリッパ。禿げた頭部と個性的な赤いメガネフレームのずれた組み合わせが、かなりめんどくさそうなおっさんの印象を与えるのはこのフレームで間違いない。

脅迫および、威力業務妨害

冒頭陳述によると、兄弟の金銭トラブルが、行き過ぎた口論に発展したと言うものだ。これはどこにでもある相続争いなのだが、ちょっと他と違うのが、兄の思い切った「訴訟」という行動に出たことだ。

2年前に経営者である父が逝去し、兄弟による遺産分割協議となった。会社は兄が跡を継いで、弟は会社には関与しておらず、バーを経営している。遺産分割協議も無事終了し、いつもの兄弟の日常が戻ってきた。この兄弟には妹がおり、兄と懇意にしているようである。そこで兄が妹に200万円を現金で渡したことが、人づてに伝わり弟の知るところとなる。疑問を持った弟は兄の経営する会社に出向いて、不公平だ!自分にも権利がある!と訴えた。お互い言い争いになるが、両者いったん鞘に収めることになった。

それから数日が経過したある日、弟のもとに内容証明付き郵便が送られた。差出人は弁護士事務所。依頼人は兄だった。この内容に激昂した弟は兄の携帯に電話をかけるが留守番電話で繋がらない。それならと会社に電話をかけるが、不在ということで取り合ってもらえない。電話口で興奮する弟に対応した社員が浴びせられた言葉は「刺したるぞ!ゴルァ」。電話を切った後も弟は収まりが悪く、今度は兄が依頼した弁護士のところに電話して、「夜中一人歩きできんようにしたるぞ」などと暴言を吐いてしまった。そこで、弟は即日逮捕。危険人物扱いでそのまま拘留となった。裁判の結果、懲役2年。次男は被害者に反省文も書き、3ヶ月に渡って拘留されたことで住居も経営するバーの店舗も解約、退去させられたことから社会的制裁も受けているとのことで執行猶予3年が付加された。

被告人質問

検察官は20代後半から30代前半のまだ青っぽさが残っていた。白いワイシャツの袖からのぞく赤いアップルウォッチが若さを強調する。青白赤のトリコロールな検察官。検察官の質問はまるで準備されていたかのような定型文の棒読みだった。

反省してるんですか?あなたは2件の罪を犯したんですよ!お兄さんの会社の社員に脅迫した罪と代理人弁護士を脅したせいで仕事ができなくなってるんですよ!わかってるんですか!!あなたは被害者に弁償しましたか?弁償の意味わかってますか(笑)

客観的に傍聴席から検察官と被告のやりとりを聞いていて、いやな感じがした。近所のおじさんが悪戯小僧を諭すかのような慢侮がある。だいいち、弁償と言われても、日常では弁償は物品に対して使う語句だろう。被害者に弁償しましたかと聞かれても、は?なんですか?弁償と言われても。。困惑するのは当然だろう。あなた弁償の意味も知らないの?くっ笑。。と自分の立場を利用して完全に人を見下した態度は違和感すら通り越して、不快しかなかった。

定型通りの被告人質問が終わった後、検察官は能面で、証拠書類を裁判官に手渡すその所作も機械的だ。

主文!

裁判官は手渡された書類にメガネを額に乗せながら左右に目を泳がせる。いま真剣に読んでるから!アピールが強すぎるその身振りがだいたい5分くらい。メガネを元の位置に戻し、居直り、裁判官は目の前の被告人に向かって、「主文!」と宣告する。「懲役2年に処する!」即日判決。もう一度いう。その間5分、だ。

やりすぎだろう

私はこれほど、他人(被告人)に同情したことは今までない。とはいえ、弟の罪というのは以ての外である、とまず断罪しておく。弟の発言は人を恐怖に貶め、生命の自由を危険に晒す行為なのは間違いない。行為そのものよりも、社会人としてのモラルや理性を再考し、自己の稚拙さを認識する努力が必要だ。それにしても、だ。ちょっとやりすぎではないですか?と言いたい。

言葉の選択はその人の知性や教養の問題であるにしても、いきなり内容証明が送られたら、誰でも理性が外れてしまわないだろうか。信頼していた兄から、そして国家から「正式」に挑戦状を叩きつけられるのだ。最初はおそらく落ち着いて話していただろう。たぶん。相手の思わぬ態度や言動でだんだんヒートアップして、前後不覚におちいり、(小生もそれに近いことはあるにはある)今回の暴挙に出てしまった。

それにしても当事者であれ法律の専門家であれ、法治国家において理性と尊厳を維持する社会の前に管理者たる社会がコントロールすべき選択もあるはずだ。また複数の選択を整理する機構があってしかるべきなのだ。それなのに、法律に沿って適切な手順を踏んだものが優先され、箍を外したものは断罪される。

弁護人とてしかり。依頼者を守る立場であっても実行する前にもう一度話し合いの場を持つ示唆を依頼人に与える余裕はなかったのだろうか。提訴しようとする相手が全く利害の外にいる人間ならともかく、親族であり、依頼者の実弟だ。専門的な立場であれば起訴される可能性が大きいことや量刑についても推察できるだろう。考えてみてほしい。ある日突然、逮捕されて、3ヶ月間も拘留されれば、社会から抹殺されたに等しいではないか。仕事も家族も失くして、もう若くない弟は前科までつけられることになる。自暴自棄になって暴発するリスクは想像できなかったのだろうか。

この裁判では終始遺産分割協議の正当性について協議されることはなかった。検察官が遺産分割協議についてどれほどの知見があるのかは不明だけれど、事件の発端が相続に関わる現金の授受なのだから、事件の発端、つまり暴言の原因と考えられそうな遺産分割協議の内容に齟齬があったのかどうか裁判で明らかにすべきなのに完全スルーされていた。電話で社員と弁護人を脅迫した事実とそれによって業務に支障をきたした事実の証拠確認と被告人の証言(自白)しか取り上げられていない。ということは、被害者たる当事者が被害届によって、検察が起訴さえすれば裁判では原因なんてどうでもいいわけだ。起訴事実が裁判官に証明できれば、判例によって結果が決まる。起訴の段階で、最初から仕組まれたシナリオがあるんだろう。結局そんなもんだろう。彼らは演者なのだ。

私は今回、たまたま傍聴した裁判から多くのことを教わった。大きく分けて2点。

1、その気になれば、誰でも起訴できる。起訴されたら99.9%この国では逆転勝訴はない。(第1審では)

2、内容証明付き郵便は宣戦布告と同じ。送付する前にもう一度よく考えて。

腰縄に巻かれ、肩を落として寂しそうに202号法廷を出てゆく後ろ姿に問いかけたかった。

理不尽な世の中、前を向きますか?それとも捨て身で報復しますか?

 

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