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第1話 同族の株主総会

2021.06.03

後継者の蹉跌

夕暮れの週末の社長室。

目の前に、弟で次男の隆也が座っている。

汚れのない作業服に身をまとい、足を組まずに両手を膝に置いて静かに長男の私の話を聞いている。

会社法や株の知識がない元ギタリストの隆也に、

小学5年生が理解できるていどに噛み砕いて、

一言一句を吟味しながら、全体を抽象化して説明した。

来週の株主総会で隆也の所有する株が必要だ、と言うことを強調すれば、

余計な説明はむしろ理解の障害になると考え、サッと簡潔にした。

隆也は「うんうん」とそれ以外のことは言葉にせず、ただ頷いている。

かえって、本当に理解してるのかと不安になったが、

最後に隆也から「わかった」と一言あった。

帰り際に、お客さんから頂いた桂新堂の海老煎餅を渡すと、

「貢ぎ物みたいで嫌だから」と、それを受け取らなかった。

間違った日本語の使い方をしているが、

要は収賄のようだから受け取れない、と言う意味だろう。

説明した内容は理解してくれていると、少し安心した。

 

51%なら天国。

49%なら地獄。

 

 

所有する株の過半数を制したものが勝利する。

民主主義の根幹は大企業だけではなく、中小企業も含めた株式会社はそれに該当する。

 

実はこう言うことだ。

経営方針で激しく衝突してきた会長の父がいる。

5年前、私が社長に就任した直後の取締役会で、方針が完全に決裂した。

こともあろうに大のオトナが取締役会で中学生の喧嘩を展開した。

形式的ではあるが、父を会社から退場に追いやったのは私であった。

屈辱の退場から5年。いま、父は戦いの火蓋を切ろうとしている。

決戦は来週金曜日の定時株主総会だ。

同族会社でプロキシファイト。つまり委任状争奪戦が始まりそうだ。

ここで、次男の隆也の所有する株の行方が私の人生を左右するのだ。

 

隆也を少し紹介しておく。

創業者は私から見た祖父である故服部隆三(母方の父)だ。

母は4人姉妹の長女で、直系が相続する話になっていたらしい。

そこで、私の弟である次男の隆也が服部の養子に入った。

そのまま、創業者の株を相続したため個人での所有は父と母についで3番目となった。

 

発行株式数600株。

原則、1株=1議決権で種類株はない。

私の株が36株に次いで、社長派に期待される株が、

少数株主69株、持株会140株。

全部合わせて245株。過半数には足りない。

一方、敵対する父である会長が170株。取巻きの古参役員が35株。

入院中の母の株が90株。合わせて295株。

そして、次男の隆也の株は60株。

隆也の行方が両者の天国と地獄の行方を左右する。

隆也の株が入れば305株で私が勝利する。

 

6月22日。定時株主総会。

出席者は議長である私、会長、娘婿の吉見、古参役員の咲山、総務部長の佐野、次男隆也、持株会代表と少数株主は委任状出席。

定足数と本日の出席者数、委任状出席を確認し、本総会の成立を宣言する。

本日の議題は第一号議案の決算報告のみだ。

任期途中なので、もちろん役員の改選はない。

決算書を読み進め、そのまま監査報告に入り出席者全員に合議の決を取る。

 

審判の時がきた。胸がドキドキする。その結果。

 

議案同意の挙手を促すが、参加者全員、

「・・・・・」 無視。

私の横に座った総務部長兼取締役の佐野を横目で見やると、

もともと白い顔面は緊張と恐怖で蝋のようだ。

そこへ突然!

「代表取締役の解任を動議する」

会長の一言だ。

娘婿の吉見が続ける。

「会長、奥様、私、咲山俊彦くん、服部隆也くんの合計**株を持って、代表取締役解任案の可決とします」

隆也が裏切った。

ロの字の席の左端に座った隆也は俯いたまま眼を合わせない。

呆然とする私の脇で、娘婿の吉見がパンパンと手を叩いて「はい、終わろうや」と総会を締めくくった。

帰り際に、吉見が隆也の肩をポンと叩いて、「おつかれさん!」と言った。

その瞬間、会長、娘婿、隆也の見事な連携プレーの勝利と見えた。

抑えていた歓喜の声が、満ち満ちた吉見の笑顔に描かれていた。

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