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佐野経理部長

私は会長である父親と義兄の娘婿から株主総会で解任動議を出され、会社を追放されたバカ後継者でした。

株主総会のひと月前あたりに、佐野経理部長から相談があるので時間を取って欲しいと、神妙な顔つきで言って来た。

佐野くんは僕が最も信頼を寄せている側近だ。
ひょっこりひょうたん島の博士に似ている。

彼はお酒もやらず、ギャンブルも、女も、タバコも一切やらない。
僕と共通するのは、ギャンブルとタバコだけで、あとは真逆だと言って良い。
石橋を叩いて渡る典型的な慎重派です。
そんな慎重な彼だから会社の実印も管理させていたし、
金庫の番号も彼から教わったくらいだ。

最近、会長と義兄と古参役員の様子がおかしいと。

ほとんど会社に顔を見せなくなった義兄が、
頻繁に会長のいる子会社に行って、
密室で話し合っていると。
しかも、そこに古参役員の咲山も一緒にいるのだという。
佐野くんが不審に思った決め手が、
自社株や経営に興味のない義兄が、
株主リストを見せてほしいと佐野くんに言ってきたことだ。

当時、私は私的に会社から金を借りていた。
その金は今すぐ返済した方が良いと警告があった。

会社から借金をした理由は、古参役員が所有している自社株を、
できるだけ早いうちに買い取ろうと計画していたのだ。
投資信託を一部解約すれば自己資金で十分まかなえたのだが、
年2回の配当は利回りも良く魅力的だった。
会社から借金して利子を払って、
会社も営業外収益が入ってウィン、
僕も配当が入ってウィン。
そうして僕は会社から自社株取得資金という名目で金を借りた。

しかし、ここからがいけない。
誤算というか、私の甘さだ。

経営継承円滑化法という新設された制度をこの時知ることになる。
この制度については詳しく後述するが、
贈与の対象が一対一から、
複数対複数も可能になった。

という事は、
古参役員の咲山が所有する全株を贈与という形で譲り受け、
この制度を使えば贈与税は猶予され額面分だけ古参役員に払えばいいと、
安易に考えた。

それをわかった時点でそのまま会社に全額返済すれば良かったのだが、
人間現金を手元に置くと、
ろくな事がないのがよくわかった。

いつでも気軽に返せるお金。
しかも、領収書も要らない使徒目的のない自由なお金。

昔から佐野くんの直感は、
かなりの確率で当たるのはよく知って良いる。
でもしっかり2.5%の高い金利で返済していたし、
別に今すぐ返済する必要もないだろう。

それに、
ん?
ちょっと、何で義兄や会長が知ってるんだ?

会社から金を借りてた事や使徒目的とは別に使ったこと。
会社に損害を与えたわけでもないのに何でそんなに目くじら立ててるんだ?

何も知らない水面下で僕を追放する計画が虎視眈々と進められている事に何も気づかず、
佐野くんの警告にも耳を貸さず、今夜も僕は遊びに出かけて行った。

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