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第5話 私物は倉庫に眠ったままに

2020.12.30

お知らせ

誰もいない社長室で、ひとり私物を段ボール箱に詰める。

交戦か降伏か。

ここ数日は葛藤の日々に衰弱しきっていた。

 

私の解任から追放されるまで、1週間の猶予が与えられた。

解任の翌日、私はその当時の役員を集め事情を話し、彼らに詫びた。

彼らには私の謝罪などどうでもいいようで、

これから身に降りかかる未知への不安が彼らの顔色から伺えた。

 

この時、会社は奇妙な状態におかれていた。

旧役員は去っていく私と「これからの計画」を社長室で話し合う。

会長を中心とした新役員は棟の違う別の会議室で「これからの計画」を話し合う。

このようなパラレルワールドがわずか40名の会社で行われていた。

 

噂の広がりというのは組織の大小のそれではない。

静かな水面に風が波紋を描くように、敗将を報せは広がっていった。

関ヶ原で言えば、さながら私は石田三成だろう。

河野くんは島左近ってとこか。

後藤くんは真田昌幸。吉田は宇喜多秀家。

隆也は間違いなく小早川だ!

 

そんな敗軍を眺めながら、考えた。

私は責任を取ることで、彼らを救うことはできない。

だから身を引くことにした。

いや、違うな。置き去りにして逃げたのかもしれない。

 

負けるというのはこういうことだ。

同時に自分の意思ではなく、

負けや失敗は気づかないところで大きな口を開けて待っている。

わずかな緩みや思考の歪みが少しずつ大きくなっていく。

修正に気づいた頃にはもう遅い。

残念ながら後継者や社長に「修正」の苦言を呈する人間はそういない。

負けた事実は変わらない。だから身を引く。

 

私物には大量の書物があった。

良書や古典、入手が極めて困難なレア物。

段ボール10箱分に詰め込んで、2階の倉庫に保管した。

また、最終日に取りに来ればいいと思っていた。

いや、そのうち数年経ったら戻って来るだろう。

そんな軽い気持ちで倉庫に持って上がった。

 

結局、2度と戻ることはなくなった。

またその価値を知られることもなく、倉庫の片隅で封印されることになってしまった。

あー、今頃は埃を被って元のオーナーの手元に戻るのを待っているのだろうか。

いやいや、社員の誰か(たぶんアイツ)が年末の大掃除の時に見つけて、

ヤフオクかメルカリで売却してるかもしれない。

 

そろそろ取りに行かないと。

ディフェンダーのホイールも邪魔だろうしな。

しかし、取りに行くのは思いのほか勇気がいるものだ。

巣に戻る習性のあるムクドリは、辺りを汚し、

うるさくするので家人から嫌われる。

厄介者が戻ってきたと嫌われる。

私もムクドリと同期するのでして、どうしても足が遠退いてしまうのだ。

これは一度追われた経験のある人ならわかるだろう。

たぶん、行っても門前払いみたいな扱いするだろう。

ハンプティダンプティに煮え湯を飲まされるのはごめんだ。

 

なので、今回は知り合いの弁護士に日当払って取りに行ってもらおう。

自分では取りに行けないので。

 

私物を段ボールに詰める作業はつらい。

引っ越しとは違う。

なんて言うかな、ひとつひとつの思い出を消していく作業に似てるかな。

 

今度取りに行って、ある場所にあるはずの私物がなければ、

おまえらブットバース。

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