オレの酒が飲めんのか
2020.10.17
みなさん知ってますか?
オレノサケガノメンノカ!
今では懐かしい昭和を代表するフレーズです。
酔った上司が嫌がる部下に酒を強要する時に使われた言葉です。
今の時代、これやったら大変です。
傷害罪
損害賠償責任
を問われる可能性があります。
2015年、忘年会の事故をお話します。
その年度の新人社員を担当上司が各部署を回って紹介するという忘年会の恒例行事がありました。そして、宴のお開き三本締めは新人社員が行います。
上司に付いて挨拶に回るのは新人のNくん。ちょっとやんちゃで愛嬌があって可愛いがられるタイプです。まず、最初に社長である私のところに挨拶に来ました。その時、酒が強いと豪語する目の前の青年になにか不吉な予感を感じたのです。
余興も盛り上がり、そろそろお開きの時間が迫るころ。三本締めのNくんがいません。タイミングよくお店の方からトイレから出てこないお客さんがいるとの連絡を受けました。
予感は的中。お店に事情を話してトイレのドアを開錠してもらうと、半裸で天を仰いで顔面ゲロだらけのNくんがそこにいた。目の前の光景にこれは事件だと感じた瞬間、大ごとにはしたくない、近くのビジネスホテルで朝まで寝かせて事実を隠蔽しようかと考えたが、顔は蒼く、呼びかけても反応がない。
やばい!慌てて救急搬送をお願いして、私が同伴者として救急車に乗り込んだ。救急車の後に総務部長と工場長が追う。そこでもNくんのご家族には迷惑はかけたくないので、救急隊員にこちらで対応するので家族に連絡はしないで欲しいと頼んだが、規則なので関係者に連絡を取らないといけないらしい。そりゃそうだ、連絡しなかったらもしもの場合、責任は負えるのかということになってしまう。車内では慌ただしく、救急隊員が救護を行いながら無線で受入先を探し、近くの医療センターに搬送が決まった。
待合室で待っているとNくんのお母さんと妹さんが来られた。私よりいくつか若く、きれいなお母さんだった。深々と今回ご迷惑をおかけした事を詫びて、Nくんの今の状態を簡単に説明した。一切無言で最後まで目を合わしてもらえなかった。
担当医に呼ばれて、お母さんと私の二人が部屋に入った。
「Nさんは回復に向かってます。もう心配はないでしょう。ところで社長さん、気をつけてくださいよ。最近多いんですよ、会社の忘年会で上司から飲まされて搬送される若い社員の方。会社の損害賠償責任ってことになるかもしれないんで、いいですね気をつけてくださいね。」
翌日の昼前にNくんが自宅にやってきた。昨夜は迷惑をかけて申し訳ないと恥ずかしそうに顎を突き出した。どうしてそこまで飲んだのか聞いてみると。いや、実は、、またばつが悪そうに頭を掻きながら。
最初は各部署まわってお互いに楽しく杯を交わしていた。そこまでは良かったが、途中で古参社員の吉本が乱入してきた。この吉本が曲者で、酒と博打と女のザ・昭和のようなやつなのだ。年上や権威には弱いが年下や序列にはめっぽう強い。
「おい、飲めや」
「はい、いただきます」
の応酬がなんども繰り返され。オレの若い頃はなぁとありもしない武勇伝を延々と聞かされ。
「ほれ、飲め」
「いやぁ、もう無理っす」
「なにぃ? オレノサケガノメンノカァ!」
となって、気がついたら病院のベッドで点滴を受けていたというのだ。
昭和の感覚が、会社の信用を毀損する
幸い、今回のケースでは大事に至ることはなく。たとえ無理やり飲まされたにしても、自分が調子に乗って飲んでしまったことや会社に迷惑をかけた事を謝罪したい、誰も責めるつもりはないと言ってくれてます。
酷いケースになると、本人にそのつもりはなくても、家族が社外労働組合にけしかけて団体交渉を求めてくることがあったりとそうなると実にややこしいです。また、本人が会社を辞めたいと思っているタイミングの悪さで裁判所に被害届を出すと脅して退職する時の有利な交渉条件に使われたりするケースもあると聞きます。
会社はリスク回避のために就業規則を定期的に見直したり、社員の教育にお金も時間もかけるのですが、お酒が入って気持ちが緩んでついうっかりってことは人間だからありえることです。立場に関係なく相手を想う気持ちが悪意のない強要になってしまうこともあります。
だからと言って会社での飲み会はしないというのはコミュニケーションにも支障をきたす原因の一つにもなりますし、社員の張り合いも無くなります。会社の飲み会禁止って聞いただけで問題ありそうな会社ですよね。
酒癖の悪い社員はどの会社にもいるようです。そこを管理する立場にある役員がこれではどうしようもないのですが、残念ながら経営者や後継者の方の悩みはつきません。
あとで聞いた話ですが、社長である私自身が救急に立会ったという姿勢をNくんのお母さんが大変評価し感謝していたということです。
あの時は会社に対する怒りのあまり無視されたと感じてましたが、我が子の心配で周りに気を使う余裕なんてなかったのでしょう。