これからの新事業承継

2020.08.30

先日、これから親の会社を継ぐ予定という後継者候補の若い営業マンと話をする機会がありました。

商談も終りに差し掛かった頃に、なんで親の会社を継ごうと思ったんですか?と聞いてみました。

すると、「そこに船があるから」と彼は答えました。

イギリスの登山家ジョージ・マロリーの「そこに山があるから」をもじったのでしょう。

親の仕事は幼い頃から見てきたし、次世代を担ってほしいと願う親の期待もあるという。

子供が親の会社を継いで大きく託して次世代に渡す。この連鎖が永遠に続き繁栄していくことは理想でしょう。

しかし、昭和から平成、今、令和の時代になってその価値観も世の中のニーズも一転した。

先代から次世代に継なげる方法や考え方をちょっと違った角度から見つめ直す時期がきているのではないでしょうか。

もはや先代から受け継ぎ渡す永遠の連鎖は今の時代ファンタジーなのかもしれません。

 

親は事業を子供に譲る気はあるのか

永遠の連鎖を阻む要因の一つは親から子への軋轢が挙げられます。

親は子供に事業を任せたい、譲りたいと思っている。

それって本当にそうなんでしょうか。ほとんどの後継者は親のこの期待に疑いは持っていません。

確かに先代経営者である親たちは本気で事業を子供である後継者に任せたいと思っています。

よっぽど後継者がボンクラ息子(娘)か経営者向きではない研究者タイプか、或いは世襲異論者は別として、

これはほぼ間違いのない事実だと思います。

ただし、所有と経営の問題さえ理解していればの話です。

 

大企業と違って中小企業は所有=経営となっている場合がほとんどです。

ほとんどの場合、親と後継者の大きな溝はここにあるのです。

代表取締役という肩書きは権限移譲という意味で捉えられます。世間にも社内にもそうなります。

後継者もやっと認められたと肩の荷をおろしますが、株は譲りません。

つまり、いつかは任すと、言いながら、いつまでたっても実権は親である先代がしっかり抑えてるということです。

所有の根幹である株が移譲されていない限り、代表権だけ見かけだけ移ってもいつでもクビにできるのが現実です。

入社して間もない若い後継者はなんの疑念もないでしょう。

しかし、取締役になって、それなりに勉強もしてきて、今おかれてる立場に違和感を感じた時に最初の衝突が始まります。

その時初めて気がつくのです。

親父って譲る気ないんちゃう?

 

贈与など税金の問題で株を移動できないから株は持っておくと仰る先代経営者は多くいらっしゃいますが、

都合のいいエクスキューズである場合が多いのも事実です。

株などの税金が絡む問題を回避しながら権限を後継者に移譲するスキームはいくつか存在しますが、

こういう類の話をすると共通してみなさん煙をまかれます。

 

先代経営者にとっては会社は自分の分身のようなものです。

事業が順調に行っていればなおさらその権力を堅持しようと思うのが普通かもしれません。

表面ではいつかは全て任すと後継者にも公言されていますが、実際どうでしょう。

営業会議には必ず出席して後継者の意見に口を挟む。

ひどい時には式典で後継者の経営方針をなんの相談もなく否定するなんてこともあるのです。

例えば、後継者が今年度のスローガンは「未知の領域に挑戦」としたところ、

前の役員会でも全員のコンセンサスとっているにも関わらず、

次の先代の登壇で「いまどき挑戦なんて誰でも使う」と否定に近い表現でその場の空気を凍らせます。

これでは後継者の立場どころか一人の人間としての問題です。

 

先代社長にとって後継者の立場は

先代社長にとって後継者はどのような立場なのでしょう。

いつかは身を引かなければいけない事はわかっている。体力や知力も衰えが見えてきた。不安もある。

しかし、親にとっては子供はいつまでも子供。コントロールしたい支配感は払拭できない。

成長していく息子(娘)とは対照的に自分に衰えが見えてきて、

自分で築城した天守閣から出ていかなければならない実感を否定し続けたい。

特に創業社長であれば自分の人生を事業に捧げてきた人です。

家でのんびり老後を過ごすとか、老人ホームで手芸したりなど考えるわけがありません。

やはりいつまでも頂点に君臨し、崇められ支配したいのです。

そうなると、権限が移譲される時はいつなのか、本気で移譲させる気持ちになる時は来るのか。

先代社長が亡くなるとき、その時が承継の時なのです。

だから、いつまでも言うことを聞く分身としての後継者をそばにおいておきたいと思うのです。

しかし、後継者にしてみればそのXデイまで悶々と待つという試練をしないといけないのかという疑問が湧いてくる。

 

かつての私はそんな状態にいつも危機感を感じていました。

自分が代表取締役になりたいとか、実権を握りたいとかそんな事はどちらかというとどうでもよくて、

自分が責任を持って意思決定を下したいという成長欲求です。

経営方針とか人事のことなど、会社のこれからの方向を決定する重要な事を決める経験値が成長させると信じていました。

ですから、そこの部分を持っていかれると存在する意味がないと思っていたのです。

今思うと、若いなぁと恥ずかしく感じます笑

 

後継者の気持ち

親の期待に応えようと2代目や3代目は張り切ります。

古参社員に疎んじがられて普通のことができて当然で間違ったり失敗したらネタにされて喜ばれる存在です。

それでも後継者として自覚がある以上は頑張って自己犠牲にしますが、なかなかうまくいきません。

長男ではない弟や義兄がいる場合は彼らは親族であっても後継者枠に入っていないという認識が通っているので、

社員と真正面から対立することもあまりありません。

そういうことも長男である後継者にはストレスになっていることを先代は知りません。

ワンマン経営者の長男(後継者)には大きく2つのタイプがあります。

父親を越えよう、或いは時代にあった新しいことに取り組み無理を重ねるタイプ。

それと、最初からスポイルされていて、男を喪失してしまっているタイプ。

多くの課題を抱えているのが前者のタイプ。私は間違いなくこのタイプに属していました。

それに対して、後者のタイプは二人三脚でうまくいっているように思えます。

完全に男を無くした言われたままの操り人形に見せかけといて、

強かに計算している賢い戦略を持っている後継者も珍しくありません。

 

新しい事業承継というカタチ

もう一つの永遠の連鎖を阻む要因は賞味期限の問題です。

我が国が誇る世界のトヨタも、起源は紡績です。糸から自動織機になってそこから自動車に変貌していった。

それには時代の流れがあり、時流に乗ったということです。

今、後継者の皆さんが引き継いだビジネスモデルは賞味期限は切れてませんか。

先代や古参社員が仕切れるモデル自体もう古いと思いませんか。

新規のビジネスが立ち上がるのは早くて5年、だいたい10年はかかると言われています。

先代のビジネスモデルに執着してコンフォートゾーンにいたのでは成長は望めません。

先代のビジネスは先代や古参の方々にお任せして、新しい会社を起業する気持ちで取り組んでいけば、

任されるとか譲るとかの思考にはならず、むしろ考えている余裕ないと思います。

 

先代のビジネスと後継者のビジネス

先日、運送業で3代目の女性経営者とお会いしました。

彼女も先代や兄弟との軋轢に苦しみ、暗闇で藁をも掴む思いでやってきたと事業承継の苦労をお聞きました。

その中で彼女は次世代に事業をつなぐことが自分に与えられた使命なんだと思ったそうです。

彼女の思いは先々代がトラック一台から事業を興し、受け継いできた運送会社を自分の代で閉ざす訳にはいかない。

何としても次に継なげるという思いですが、残念ながらそのままの思考では苦しみのスパイラルから出る事はできないだろうなと感じていました。

先代が継なげてきた思いを次世代に渡していく事は重要ですが、先代がしてきた事業と後継者が行う事業は違うと申し上げたい。

先代とて一人の人生がありその中に先代の事業がある。

先代の事業のご相伴に預かりたいのなら文句を言わず先代の人生に寄り添うべきです。

そうではなくて後継者には後継者の人生があリます。

自分の人生を生きたいのなら自分の道を次世代に継なげていく必要があると思います。

そして自分が譲った道を次世代が創っていく。

そうやって継なげていくのが新しい事業承継です。

急な変化は波紋を呼ぶので注意が必要ですが、要はそのまま継ないでもこれからの時代はうまくいかない。

 

まとめが雑ですが

株を譲るとか実権とか、任すと言いながら横槍を入れるとか繰り返される後継者の議論の数々。

自分のビジネス興して突っ走れば、そんな事どうでも良くなりますよ。

先代の人生を尊重しながら自分の人生いきましょう。