スチュワードシップが重要

2020.06.23



私は娘婿後継者に特別なものを感じます。

実子後継者にはない、特有のバランスを持ち合わせた親族内サラリーマンのようです。 

血が通った実子のように正面からぶつかることを避け、
極力お互いが遠慮しながらうまくちょうどいい距離を暗黙の了解の中で保っている。 

親族だけど他人というドライな人間関係がうまく作用すればビジネスの場においてはこれ以上ない
最適なパートナーです。 

ただ一つだけドライな娘婿に物足りないものを感じてしまうのです。 

それはスチュワードシップ。 

受託責任です。 先代から受け継ぐ責任。

星野リゾートの星野佳路代表の言葉を借りれば駅伝のたすき。

非同族会社であれば、株主はリターンを最重視するので、役員に対しても利益を高めることを 求める。

同族会社の場合は短期的な利益の上昇よりも長期的なサスティナビリティが重視されます。

駅伝においては区間賞を取るよりも襷をつなげることの方が高次の目標とされる。

 

スチュワードシップを欠いた娘婿後継者の話をします。 



私が以前経営していた会社の近くに、従業員7、8人の小さな電気工事会社がありました。
 
小さなと言っても電気工事業の平均社員数は大体こんなもんです。 
その会社は市町村から発注される公共工事が6割で、後の4割が民間の下請けをしていました。 
経歴も長く戦後ハダカ一貫で立ち上げて社長一人で頑張ってきました。 
今はとある事件が原因で廃業されました。 

この会社を記憶しているのは、社長のクセが強すぎる事でした。 

とにかく一度怒らせると納まりが効かない非常にめんどくさい社長だったのを覚えてます。 

この会社の事務員さんは社長の一人娘でした。 

ちょっとやんちゃで男好きする感じの娘さんでした。 

ほどなくして、社員の番頭と娘が結婚する事になったのです。 

クセの強い社長はその番頭を後継者として育てました。 

しかし、社長と番頭の蜜月関係はそう長くは続きませんでした。 

経営方針の違いから対立が目立ち始めました。 

最初は無視が続いて、次第に言い争いに発展し、 
些細な事で取っ組み合いの喧嘩が始まる毎日です。 

毎朝のミーティングで罵倒し合う様を見せられる社員はたまったものじゃありません。 

しかも、事務員の娘も旦那に加担し始めます。 

本来調整役となるはずの娘が火に油を注いだようなものです。 

ある頃より、売り上げが急激に落ちていきます。 

なんとこの番頭、娘と共謀して別会社を作って売り上げをそっちに計上していたのです。 

小さな町でのこと、そんな情報はやがて社長の耳にも入ってきます。 

時すでに遅し、社員と顧客は洗いざらい新会社に移し替えられてしまいました。 

何より社員をなくした電気工事会社は仕事があっても受注できません。 

まもなくして、会社の看板と市内の電気工事業者の登録リストから名前が消えていました。 

正直、私はこのクセの強い社長に好意を持つことはなかったのですが、 
この時はさすがに同情しました。 

後継者として期待していた娘婿に愛娘と会社をとられた無念さは想像に耐えることができません。 

拾ってきた子猫に毎日餌をやって育てたら、 
いつの間にか虎になって全員喰われたという御伽噺がありました。


人生には理不尽な事って、あるもんだと感じました。 

廃業後、そっと一人で倉庫に佇む社長の姿を見て、そう思いました。