クレーム処理は後継者が適任

2020.07.08

微妙な立ち位置の後継者が適任です。

会社を経営していると予期せぬクレームで悩まされ余計な時間と労力を削ぐことも

多々あるのはご存知だと思います。

大手と違い、多くの中小企業はクレーム処理係なる部署や専門家はいません。

クレーマーへ社員が対応する場合、不慣れだったり、不手際が理由で不信感を持たれます。

また、ほとんどの場合、誠意がないと捉えられ、

「なめとんか!社長ださんかい!」となってしまいます。

社長が対応してしまうと、即答を求められた場合の意思決定の撤回が難しくなりますし、

昭和のイケイケの時代を経験している先代社長ですと、カーっとなって売り言葉に買い言葉で

”大きい声で言い包めた奴の勝ち”みたいな価値観をお持ちの方も多そうです。

あとで取り返しのつかない問題に発展する場合もあるので気をつけたいところです。

そこで、後継者の出番です。

クレーム対応は後継者が適任です。

重要な責任者ではあるけれど最終責任者ではない微妙な立ち位置にいるのが後継者です。

先方の話を受け止めて、一旦保留にすることができる適任者です。

しかも、先方にも納得感を出せるのも後継者なのです。

 

ここで私が後継者時代に経験した想定外のクレーム対応をご紹介します。

ある日突然クレームの電話が

いつも通り、仕事をしていたら。

社長宛に知らない男から電話があった。

あいにく社長は不在だったので、当時専務取締役であった私が電話に代わった。

営業の売り込みかと思い、要件を聞くと、

なんと、

うちの社員がひき逃げしたというのだ。

「あ、オタク社長さん?」

「わしオオタっちゅうんやけど」

「昨日の晩な、うちの娘がオタクの車に轢かれたんや」

「どないしてくれんねん!」

 

そのオオタという男の話によると、

昨晩の9時頃、地元の公立高校から自転車で帰宅途中の娘が車にぶつかって転倒した。

そのまま車は立ち去った。

その時の娘の証言によると車のドアに書かれた会社名を記憶していて、

我が社の車にぶつけられたと親に打ち明けた。

「あいにく社長は不在でして、私、専務のタマバヤシが対応させていただきます」

「あかん!社長だせ!」

「社長は私の父でございまして、責任持って私の方からお伝えしますので」*

「あ、あー、と、アトツギさんね、、」

*親族でない場合は先代との関係性を説明し次期経営者であると説明がいるのでめんどくさいのだが。

 

一瞬トーンが落ちて納得した感じが受話器を通して伝わってきました。

そして、状況を確認して1時間後に折り返すと約束して、一旦電話を切った。

 

内線で各部門長を集めて、昨日の夜9時に社用車を使った者は誰かを確認したら、

該当する者が一人だけいた。

制御技術部の西井くんだ。

仕事熱心だけどちょっとお調子者で落ち着きがない。

彼は翌日の名古屋出張の準備を遅くまでしていた。

明日は直行するという事なので、会社の車で帰宅した。

本来は翌朝会社に来て車を乗り換えて、が正当なのだろうが、

早朝の場合のみ認めていた。

名古屋に出張中の西井くんに工場長の山染くんが電話をかけるが、

どうやら西井くん、運転中のため繋がらない。

 

そして約30分後、

かかってきた!

工場長経由で私に電話が回された。

「専務ぅ、おつかれーっす」

「どうしたんすか?」

 

「おう西井くんおつかれー」

「西井くんさ、昨日会社の車で帰ったよな」

「帰る途中なんかなかった?」

 

「えー、、あー、ありましたね」

「女子高生が自転車で転んで、、」

 

西井くんによると、

会社に面した道路は夜間、外灯の明かりだけで暗くて幅員も狭く視界が良くない。

で、前方をライトで照らすと自転車に乗った女子高生が確認できたのでゆっくり近づいた。

なんとその女子高生、

携帯片手にイヤホンしながらメールしてる。

後ろから”抜かすよ”という意味のクラクションを一回プォン。

すると、慌てたのかヨロヨロとバランスを崩してパタンと車側に転けた。

慌てて、車外に出て、女子高生に駆け寄って、病院行くかと尋ねたが、

大丈夫の一点張り。

怪我の様子もないし、こんな夜中に女子高生と2人きりという微妙な空気

に違和感を感じて、その場を立ち去ったという。

「西井くんね、その女子高生の親からさっき電話あってね、

なんかヤカラっぽくて訴えるとか言ってんのよ」

 

「マジすか」

「こっちが訴えたいすよ」

「自転車乗りながら携帯にイヤホンで、

しかも向こうからぶつかって来たんすよ」

 

「うん、気持ちはわかるけど、やっぱ報告してくれないとさ、、」

「ま、帰って来たらゆっくり話聞くわ」

「頑張ってね」

 

とりあえず、約束の1時間になったので、折り返し電話して、

直接あって話したいという旨伝えて、

総務部長と指定された喫茶店に向かった。

この手のクレーム対応は過去にも何度か経験しているのである程度の免疫はあると思っている。

クレーム対応で心がけていること

  1. 今回の目的を明確にする
  2. 誠意を見せる
  3. 社長が直接対応しない(場合にもよる)
  4. 反論しない
  5. 怒らせない
  6. 金品の要求には応じない
  7. 録音する
  8. 安心安全な場作りに集中する

 

以上を念頭に置いておく。

 

訴えるとか金品の要求があったり脅迫まがいなことも想定して、

総務部長にはポータブルレコーダーを忍ばせた。

オオタさんは先に到着していた。

短く刈り込んだ頭、縁なしのメガネに恰幅の良いジャケットを着て、

上体を大きくソファーに預け足をくんで私と総務部長を睨みつけてきた。

 

やばい、、完全にそっち系だ。

威圧感に押し潰されそうになりながら、丁寧に名刺を差し出し席に着いた。

今日は大変お忙しいなかお時間いただきありがとうございますと、まずは労をねぎらった。

娘さんの体調を心配し、医師の診断を薦めるが、娘自身が診断を拒否しており、

今も元気に学校に行っているという。

結局、1時間ほど話をしたのだが金品の要求や脅迫まがいのものではなかった。

会社の姿勢を見せて欲しかったのだそうだ。

夜間に携帯にイヤホンでメールしながらの自転車運転は言語道断だが、車が人と接触した時点で事故である。

事故証明も取らずにその場を去ってしまったらひき逃げに相当する。

会社の名誉を毀損する一歩手前だったのだ。

そのことをしっかりと経営者は認識して欲しいという彼からの意思表示だった。

なんとオオタさんは過去に3回会社を潰して、今は人材派遣で成功してると照れ臭そうに笑いながら語っていた。

どうりで一般人とは違う迫力と言葉の行間から感じる説得力があった。

すぐに就業規則を追記することをお約束し、気づきの場をいただけたことに感謝を申し上げその場を後にした。

厄介な反社に絡んだ相手と勝手に思い込んだ自分が恥ずかしくなった。

 

ふぅ、これで一件落着。

 

後日、役員会で社長に報告した。

 

「バカヤロウ!向こうが悪いんじゃないか!謝るなんて情けねぇー!」

 

社長がその場にいなかったことを心から感謝した。

 

まとめ
  • クレームは8つの心得を意識する。
  • 些細なことでも事故証明はとる。
  • 通勤の移動中は会社の管理下にある。
  • 社内の厄介なことは後継者の仕事である。